お知らせ

窃盗癖(クレプトマニア)について2014.1.14

カテゴリー:お知らせ 

皆さんは、窃盗癖(クレプトマニア)という精神疾患があることをご存じでしょうか。

最近、報道番組等で取り上げられることも多くなっていますが、先日私が国選弁護で担当した被疑者(被告人)に、窃盗癖とみられる症状を有する方がおられました。 被疑者は40代の主婦だったのですが、接見してこれまでの検挙歴や犯行状況等を確認したところ、数年前までは全く前科・前歴とは無縁の生活をしていたものの、失業等をきっかけに突然スーパーなどでの万引きを繰り返すようになり、約3年足らずの間に8回検挙されて、直近は罰金刑→執行猶予付懲役刑と処分が重くなっていき、今回は執行猶予期間中であるにもかかわらず、スーパーで万引きしてしまい、逮捕・勾留されたというものでした。

もちろん、本人は捕まる度に反省し、二度としないと誓うのですが、スーパーに立ち寄ると、半ば無意識に必要でないものもどんどん持参したエコバッグに入れてしまい、気づいたらレジを出てしまうということが起こり、このような大胆な犯行から当然のように警備員に見つかり、ほぼ毎回捕まってしまうという信じがたい内容でした。 盗む物も、食料品など決して高価な物ではなく、家の冷蔵庫にも入っていてさしあたり必要でない物であり、一発実刑が通常である執行猶予期間中の犯行としては、いわば割に合わない不合理な犯行と言わざるを得ないものです。

弁護士の感覚では、執行猶予期間中の犯行であれば、軽微な犯行でも一発実刑は免れず、再度執行猶予が付くことは極めて例外的な場合にあたるのですが、本件では、再犯防止のためには、被疑者を刑務所に入れて済む問題ではなく、一刻も早く医療機関での専門的治療を受けさせるこを優先させるべき事案だと思われたため、起訴後の公判手続(この段階で被疑者は被告人となります)では、何とか寛大な再度の執行猶予付き判決をもらい、治療に専念させることが弁護活動の中心となりました。

本件では結果的に、再度の執行猶予を認めてもらえたのですが(検察側の控訴もなく確定)、判決書等から同種事案における弁護活動のポイントは以下のとおりであると考えます。

① 窃盗癖(クレプトマニア)にあたることの立証

これまでの犯行歴、犯行状況から、文献等を引用して窃盗癖患者であることを指摘することはもちろんですが、起訴後には保釈申請して速やかに身柄を解き(起訴前に釈放が認められればなお良い)、専門機関を受診して診断書を作成してもらうことは不可欠と考えます。また、クレプトマニアの患者は、摂食障害(過食症や拒食症など)の症状を併せて持っていることが多く、本件の被疑者も、万引きを繰り返すようになった前後から、長年摂食障害に陥り、入院歴がありました。

② 治療の意欲があることの立証

公判廷の被告人質問の中で、本人に真摯に治療の意欲を語ってもらうことはもちろんですが、上記保釈後に速やかに治療のために入院し、実際に治療を受けている実績を示すとともに、担当医師に治療の効果が上がっていること等を意見書として作成してもらうことが必要です。本件ではたまたま病院に空きベッドがなく、公判時には入院予約を取っている状況しか示せませんでしたが、本人に治療意欲があることは最低限示せたのではないかと思います。

③ その他情状の立証

窃盗癖の患者には、患者同士の自助グループが各地に結成されており、本件でも、被告人が保釈後に自助グループのミーティングに参加したり、保釈前に家族がミーティングに参加したことが、被告人の更生意欲や家族の覚悟を示す事情として評価されました。その他、家族の治療への協力(治療費など金銭的な援助も含めて)についても、可能な限り有利な情状事実として示す必要があります。

本件は幸運にも上記有利な情状を評価してもらうことにより、再度の執行猶予という結果が得られましたが、まだまだ世間では「やめたくてもやめられない」クレプトマニアの患者についての理解が十分ではなく(単に意思が弱いだけ)、裁判上も、再度の執行猶予がつくことは極めて例外的なようです。もちろん、万引き犯対策として経費もかけている被害者(店舗)にとって、万引きを繰り返す者に寛大な処分を行うことは受け容れがたい面はあるでしょうし、実際に、再度の執行猶予付判決を得たにもかかわらず、再び犯行に及んでしまう場合もあると聞きます。

このような状況のもと、弁護人としては、捜査段階や公判段階の弁護活動はもちろん、幸運にも再度の執行猶予を得た被告人が再び犯行に及んでしまうことを可能な限り防止するため、医療機関と連携を取り、具体的に入院の体勢を整えることに協力したり(被告人任せにして後回しにならないよう)、自助グループへの参加を積極的に促したりすることも必要になると実感した次第です。寛大な判決を下された被告人が、身柄を解放されることにより適切な治療を受け、二度と犯行に及ばないという事例を積み重ねていくことこそが、クレプトマニアの患者への理解を促すことにつながるのではないでしょうか。

 

事務所案内

〒650-0033
神戸市中央区江戸町98-1
東町・江戸町ビル2階
神戸きらめき法律事務所
FAX:078-326-0152

上へ戻る